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コンサルタントコラム

Voice 110 経験値豊かなベテラン社員(シニア人材)採用の前に、問いかけたいこと

シニア人材の採用は、「人を迎えること」が目的ではありません。その人を通じて組織が変わり続ける状態をつくれるか――私が伝えたいのは、突き詰めればそこです。

まず、「人が足りないから採る」という発想は、一度手放してみてください。

私がよく企業の方に聞くのは、「自社のどの経営課題を解決したいのですか?」 という問いです。内部登用や組織の見直し、外部アドバイザーの活用など、他の手段と比べたうえで「社内に入り込んで推進する人材が本当に必要か」を判断する。ここを飛ばすと、後で必ずずれが出てきます。

多くの企業から聞こえてくるのは、「人がいない」「新規事業が生まれない」という声です。

でも、それは課題の表面です。その裏には必ず、「意思決定が特定の人に依存している」「新しいことに挑戦する仕組みがない」といった構造的な問題が隠れています。シニア人材が本当に力を発揮するのは、この構造課題に対してです。単なる穴埋めとして採用しても、期待した成果にはつながりません。これは断言できます。

採用を考える前に、ぜひ自社に問いかけてみてください。経営者が権限を手放す意思を本当に持っているか、既存の幹部が役割の変化を受け入れられるか、若手が学びの機会として活用できるか、外部人材の導入で生まれる摩擦を前提にできる文化があるか。準備のない組織では、どれほど優秀なシニア人材も機能しません。これは残念ながら、何度も目にしてきた現実です。

うまくいかないケースには、驚くほど共通点があります。

役割が曖昧で何も決められない、権限がなくて実行できない、期間が不明確で関係が長引く、評価が不明確で周囲に不満が生まれる。こういった失敗は、全部採用前の設計で防げます。だからこそ私は、「どうすれば成功するか」より先に「どうすれば失敗を避けられるか」を考えることをお勧めしています。

シニア採用はコストが高いです。だからこそ、投資としての視点が欠かせません。報酬だけでなく、期待する成果・組織への影響を含めた回収の絵を事前に描いておいてほしいのです。私が特に重視するのは、短期的な成果が出なかった場合でも、組織にノウハウや人材育成という「資産」が残る設計になっているかどうかです。

最終的な判断で迷ったとき、私はいつも3つに整理するようにしています。

   「採用する」なら組織を変える覚悟が必要
   「採用しない」なら内部で解決する責任を負う
   「先送りする」なら前提が固まるまで待つ。

最も避けていただきたいのは、前提が曖昧なまま採用に踏み切ることです。それだけは、どうか避けてください。

適切に設計できれば、早い段階で変化が起きてきます。意思決定の流れが可視化され、重要顧客との関係が強化され、新規事業の仮説づくりが進みます。これまで曖昧だったものが整理されて、組織としての動きが明確になる感覚、とでも言えばいいでしょうか。

半年〜1年ほどのスパンで見ると、次世代の経営人材が育ち、権限移譲が進み、組織が自走し始めます。さらに数年単位で変化が積み重なっていくと、特定の人に依存しない経営へ。挑戦と学習が繰り返される組織になっていきます。これは単なる成果ではなく、企業としての体質改善と呼ぶべき変化です。

それだけではありません。

外部の視点が入ることで意思決定の質が上がり、組織内の基準や緊張感が引き上げられ、若手の視野が広がり成長が加速します。地味に見えるかもしれませんが、長期的に一番効いてくるのは、実はこういった効果だったりします。

最後に、シニア採用の本質は「優秀な人を迎えること」ではありません。

課題の整理・組織の準備・経営の覚悟――この三つが揃っているかを見極めた上で意思決定する。それができて初めて、シニア採用は「組織を変える手段」になるのです。

エグゼクティブコンサルタント
片原 和明